運送日記

運送日記 その1

運送屋のバイトを始めた。
お歳暮の時期だけの短期バイトなので年末までだが、
とりあえず収入があるのは嬉しい。
車で各家に荷物を届けるのだ。
これで、

「生島君って荷物を届けるバイトしてるんだよね?」
うん、そうや(運送屋)」

というくだらないシャレを言う事もできる。

いや、言わないけど。


運送日記 その2

バイトの所長との面接の時の話。

「生島君だね」
「はい」
「今はフリーター、と」
「はい」←無職なんだけど、「無職」という言葉に抵抗があった。
「仕事量の割にそんなにお金入らないからねー。
 まあ、小遣い稼ぎと思って…」
「はい」
「でも、遊びに行くのとかにお金いるもんねー」
「ええ。でも、そんなに遊びに行かないですから」
「ふーん。真面目なんだね。友達とかは?」
「いや、会社とか学校行ってる人ばかりなんで
 なかなか時間が合わなくて…」
「そうかー。そうだよねー。
 で、彼女とかいるの?

セクハラおやじ?

お歳暮届けるのに彼女がいるのかー!!
彼女いないと何か都合が悪いのかーー!!
いや、いないけどさー、彼女。

あ、ちなみにこの所長さん、とってもいい人でしたよ。


運送日記 その3

同じくバイトの所長と面接の時の話。

「道に迷う事もよくあるから」
「はい」
「どうしてもわからなかったら、荷物持って帰ってきてね。
 そこら辺に置いてきて自分で代わりにサインしたりしないで」
「はい」
「あと一人で黙々と荷物配るのは結構孤独な仕事だから」
「はい」
「結局自分との戦いだからね…。自分に負けたらダメなんだよ」

おお!まさに運送の神髄!!
なんだかカッコいいぞ。


運送日記 その4

私が担当する区域が決まった。
かなり田舎の地域である。
都会と違ってめちゃめちゃ家が少ない。

ここでいう「都会」とは東京や大阪や神戸のような場所の事ではなく、
サザエさんやのび太の住んでいる程度の住宅地の事である。
ここでいう「田舎」とはペンギン村べに花の里(「おもひでぽろぽろ」より)の事である。

運送屋の仕事の給料は時給ではなく、荷物1個あたり何円で計算される。
つまり荷物を届けてハンコをもらって初めて金になる。
そのため短時間で多くの荷物を配れば時給が高くなるのだ。
現在の相場で荷物1個で85〜90円だ。
ずいぶん安いと感じるだろう。
最近は不況で単価がどんどん下がっているらしい。

それならば、家のたくさんある都会の方が得かというと、
必ずしもそうではない。
都会は「在宅率」がかなり低いのだ。
逆に田舎は「おばあちゃん」が家にいる可能性が非常に高い。
家の中にいなければ、たんぼか畑にいる。
ハンコをもらえなければ時間をずらして配り直さなければいけないので
在宅率の高い「田舎」は一度で配り切りやすいのだ。
だから田舎といって損なわけではない。

ちなみに収入は荷物の「個数」で計算されるため、
同じ家に10個荷物があれば、一件に届けただけで
10個分の金が入るのだ。

儲けるコツは、
「いかに短時間に多くの荷物を届け、確実にハンコをもらえるか」
である。


運送日記 その5

最初の一回目は練習も含めて、先輩と一緒に配達する。
助手席に乗って、道に慣れたり、配達作業を覚えるのだ。
先輩はなぜか私と同じ高校出身の2歳年上の伊藤さん。
このバイトを4年もしているらしい。
とにかく車の運転がうまい。
速いとかそういう意味ではなくて、きびきびした動きができる。
細い所でも一発でバックで入れる。
話も面白い。
今月末から独立して運送屋をやるそうだ。
さすがである。

その先輩が警備員のバイトをしてたときの話。

「トラックの運ちゃんが一番ムカつくよー。態度がでかいんだよ。
 そりゃ、中にはいい人もいるけどさー。
 でも、ハゲヒゲメガネ(サングラス)・パンチは絶対ヤバイよ」

…ありがたいお言葉。


運送日記 その6

実際に担当区域に行くと、あらためて田舎だと感じる。
軽自動車のワゴンに乗っていくのだが、
もはや運転というより、操縦できるジェットコースター
気分はパリ・ダカ
ワゴンも軽自動車のくせになんだか馬力があって
まさにラリーに参加しているようだ。

基準となる太い道から一歩はずれると
そこはもはや大自然。
たとえアスファルトが敷いていても、道が軽ワゴンの幅しかない。
普通乗用車は絶対通行不可能だ。
軽ワゴンでも危ない。
タイヤがすべるとたんぼへまっさかさまである。

しかも、行き止まりの所に家があったりするので
荷物を届けた後、今来た道をすべてバックで戻ったり、
少ない面積でUターンしなければならない。
ちなみに私は免許を取って、まだ8ヶ月。
たぶんバイトが終わる頃には運転技術は驚くほど上がっているだろう。

「よくこんな所に家を建てたな」、と感心してしまうような所に
家があったりする。
そこに住んでいる数件のために荷物を届けに行かなければならないのだ。
その辺の茂みからトトロもののけ姫が出てきそうな場所なのだ。
竹やぶに人ひとりぐらい死んでてもおかしくない。

私はPHSを持っているが、当然のごとく
電波が届かない。
もし、途中で何かあっても連絡はできないのだ。
公衆電話?あると思ってるのか!!
もし、このホームページの更新が突然途絶えたら
すぐに捜索願いを出してください。

その辺は地図にもかなりあいまいな風にしか載っていなくて
道があるのかどうか、続いているのかどうかが
全然わからない。
だから道に迷う、迷う、迷う!

道に迷ってあきらめて帰ろうとした時、道の真ん中にでかい鳥が。
あ、キジだ。
野良キジだ。


運送日記 その7

わかってはいたけどホントに孤独な仕事だ。
まあ、私は客商売があまり好きじゃないので
コンビニとかよりも合ってるかも。
それに、都会と違って田舎を走るのはとても楽しい。
違う景色がどんどん見える。
まさにドライブ気分

でもホントに孤独だ。軽ワゴンにはカセットデッキもCDプレーヤーもないので
音楽などをかけるのは無理。
唯一ラジオがあるが、私はラジオはあまり聞かないのだ。
だからエンジン音と風だけが俺の友達。
そうさ、俺は一匹狼


運送日記 その8

時給制でないので、バイトは完全にフレックスタイム。
つまり、いつ来て、いつ帰ってもいいのだ。
その日のうちに届けなければならない「必着」配達物が運び終わり、
だいぶ辺りが暗くなってきたら、残ってる荷物は明日の分に回して
引き上げるのだ。
私の担当は田舎で街灯がないため、
夜になるととても暗く、下手をすると崖から落ちたり
たんぼに突っ込んだりする恐れがあるのだ。
だから無理は禁物。暗くなるとすぐに帰る。

それに田舎の夜は早いからね。
午後8時は深夜なのだ(行くと怒られる)。


運送日記 その9

道に迷って田舎道を進んでいる時、
塀に犬をつないだ家の前を通る事になった。
道路の左側にある家の塀のブロックの部分に
犬の散歩用のひもでくくられているのだ。
しかもずらっと5匹。すべて等間隔。
そして吠えまくる。

犬を踏まないように慎重に横を車で通る。
さらに、右側はすぐに溝があって、車との間隔はタバコの長さよりも短い。
めちゃめちゃドキドキしたが、ゆっくり行ってなんとか通れた。
すると向こうから両脇に小犬を抱えた中年男性が来た(第一印象:狂暴)。

「えーと、○○に行きたいんですけど」
「違う、違う。ここじゃないよ」
「あー、そうですかー。じゃ、この先にUターンできる場所とかありますか?」
「ないない。行き止まりだ」
「じゃ、バックして戻るしかないですかねー」
「ああ」

バック開始。
犬が吠えまくる。

「犬、大丈夫ですかねー」
「さあ…。ゆっくり下がったら、よけるんじゃないか?
 まあ、一匹300万円だから、もし足折ったら300万もらうだけだけどな」
ムカ!!

300万?どう見ても柴犬だが

ふーん。そういう事言うかー。
なるほどねー。
よーし、一匹300万、五匹で1500万ね。
よかろう。ひき殺してやる
何年かかっても1500万返してやるよ。
今の俺には金より名誉さ
そうさ、俺は一匹狼

…とは思ったけどやらなかったよ。
10分もかけて必死で戻ってやったさ。


運送日記 その10

バイトは12月末までである。
それまで週1回程度の休日以外は
朝9時半頃から夕方6時頃まで働く。
それでも11月はまだヒマな方らしい。
12月になるとお歳暮の真っ最中なので休みもままならない。
冬休みやクリスマスや大晦日などは関係ないのだ。
他人がデートしてようと家族団らんしてようとシングルベル(死語?)だろうと
運送屋は荷物を届けてまわる。
さながら俺は、車に乗ったサンタクロース


運送日記 その11

ゴルフ場にもよく荷物を届ける。
田舎は広いのでゴルフ場も多いのだ。
ゴルフ場は門から事務所まで、めちゃめちゃ距離があって
広い道路が通っている。
ゴルフ客しか入らないので、ほとんど車が通らなくて
そこをスピード出して走っていると、とても気持ちいい。

でも宅配物をフロントに持っていったらダメなのだ。
事務所の方に持っていかなければならない。
汚いカッコして荷物抱えて入ってこられると迷惑なんだってさ。
でも田舎を走りまくったり重い荷物を抱えたりするのに
スーツ着たりカッコつけたりできるかー!!

最初の一日目で、整髪料をつけるのもやめた方がいい事がわかった。
汗をかいたり走ったりするので、髪の毛がかなり乱れるのだ。
整髪料をつけた状態で汗をかいて、さらに髪が乱れると
かなりひどい事になる。
だから整髪料はつけない方がいい。
おしゃれなんかしなくていいのだ。
運送屋はただ荷物を届けるのみ。それさえできればいいのだ。
そうさ、俺は一匹狼


運送日記 その12

まだバイトを始めて2日目だが、すでに2人が辞めたらしい。
もちろん私と一緒の日からバイトを始めたわけではないので
何日勤めたかはわからないが、
バイト募集の広告が入ったのは一週間ほど前からなので
いくら長くても、せいぜい一週間だろう。
やはり仕事はキツイのだ。
結構、力仕事だし、孤独な作業だし。
やっぱり、俺は一匹狼
あ、でもエッセイのネタにならなかったら
私も辞めてたかもしれない。

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