シーマン日記

シーマン日記 その1

シーマンが欲しくなった。
シーマンと言えば、毎日毎日通勤ラッシュに揺られ、
会社の歯車となって働く人々。
って、それはリーマン(つまらん)。

シーマンというのは一昔流行った人面魚のような生き物だ。
もちろん実在する生き物ではなく、
ドリームキャスト用のゲームソフトである。

テレビのCMで見かけ、かなり気になっている。
ドリームキャストを持っていれば即買っているだろうが、
私はサターンとプレステしか持っていないのだ。

NINTENDO64があれば「ピカチュウげんきでちゅう」で手を打つところだが、
それも持っていない。

しかし、CMを見るたびホレてしまう。

コイの体におっさんの顔がくっついたような姿。
愛くるしいとは言いがたいが、妙に気になる。

おっさんにホレた22歳の夏。


シーマン日記 その2

ダメだ。
仕事が手に付かない。
仕事中にシーマンのホームページを探してしまう。

ドリームキャスト本体は2万円弱。
それにゲームデータを保存するためのビジュアルメモリが2500円、
シーマンのゲームソフトが6800円。

つまり、シーマンをプレイしようとすると
合計3万円は必要だ。

3万か…。
あるにはあるが、これから夏、真っ盛りだ。
それを使うと夏のための資金がなくなってしまう。

しかし、私は一度気に入ったものは
手に入れないと気が済まない性格なのだ。

結局、売り切れ続出の「シーマン」と「ドリームキャスト」を
街中走り回って手に入れた。

ドリキャスのパッケージには湯川・元専務の写真、
ゲームソフトにはおっさんの顔をしたシーマンの写真。
私はおっさんフェチなのか。


シーマン日記 その3

ドリームキャスト本体を部屋のテレビにセットする。
意外と小さい感じだ。

ドリームキャストのコントローラーを握ってみて
ひとつ不満があった。

本体へ伸びているコードが、
プレステやサターンのコントローラーとは違って
コントローラーの手前側から出ているのだ。

ドリキャス本体は向こう側に置いてあるため、
どうしてもコードが邪魔になりやすい。
なぜこんなところからコードを出したんだろう。

こういうところでプレステに差をつけられるのではないのか。


シーマン日記 その4

ドキドキしながらシーマンのパッケージを開け、
中からCD-ROMとマイクを取り出す。
このマイクを使ってシーマンと話をするのだ。

説明書にしたがってコントローラーに
ビジュアルメモリとマイクをセットする。

電源を入れるとナレーションが始まり、
画面は水槽へと変わった。

ここでシーマンを育てていくのだ。
66年前の科学者ジャン=ポール・ガゼーの研究を引き継いで。


シーマン日記 その5

今のところ、水槽には何も入っていない。

底に砂が敷いてあって、こぶしほどの大きさの岩と貝殻が置いてあり、
あとは温度計とヒーターだけである。

水槽

保管器を見ると卵らしきものがひとつだけある。

シーマンは最初から成魚でいるのではなく、
卵の状態から育てなければならないのか。
知らなかった。

試しに卵を水槽に入れてみるが、何も起こらない。

水温が冷たすぎるのかもしれない。
ヒーターを使って、水温を18℃まで上げ、
さらにポンプで酸素を送り込んだ。

しばらくすると水槽の中で卵がゆっくりと上下し始めた。

時間が経つと生まれるのではないだろうか。
そのままにして夕食へと席を立った。


シーマン日記 その6

夕食を食べ終えてシーマンの水槽へと戻ると
何やら小さなものが水の中で動いている。

透明な球に短いしっぽのようなものが生えている。
それが8匹いて、水の中をフワフワと移動している。

マッシュルーマー

これは「マッシュルーマー」と呼ばれる生き物らしい。
顔もついてないし、シーマンの面影はまったくない。

どちらかというと、おたまじゃくしやミジンコに近い生き物である。

透明な球の中には目玉のようなものが入っており、
私が顔を近づけるとギョロリとこっちを見た。
気持ち悪い


シーマン日記 その7

トントンと水槽のガラスを叩くと
8匹のマッシュルーマーたちは驚いたのか、
スッと遠くへ逃げる。

しかし、しばらくトントンと叩いていると、
しだいに音に慣れたのか、音のする方へ近づいてくるようになった。

しかし、マッシュルーマーは何もしゃべらないし、
表情があるわけでもない。
たまにクルクルと回転するだけなのだ。

試しに保管器の中にあったエサを入れてみたが、
食べる様子はない。
エサはむなしく底に沈んだ。

腹が減ってないのか。
エサを入れて食べてもらえないのは寂しいものだ。


シーマン日記 その8

まったく変化がない。
マッシュルーマーたちはプカプカと浮いてるだけで
向こうからはしゃべりもしないし、話しかけても特に反応がない。

トントンと水槽を叩くと寄ってきてくれるが、
ただそれだけだ。
それでは池のコイと同じではないか。
芸のないやつらめ。

それにしても暇だ。

暇なので水槽の中をいろいろ見ていると
底に置いてある小さな岩が動かせる事がわかった。
つかんで移動させると、ゆっくりと動く。

しかし、一回り大きいのはグラグラと揺れるだけで
持ち上げる事も動かす事もできない。

岩と同じように置いてある貝殻も動かす事ができない。
底に固定されているのか。

何気なく貝殻を指でつつくとユラユラと揺れる。

なんだ?水が波打ったのか?
いや、違う。
のそのそと貝殻が動いているのだ。
これは貝殻ではなく、貝(中身入り)だったのだ!


シーマン日記 その9

私は、この中身の入った貝を
「ノーチラス」と呼ぶ事にした。

ノーチラスはたまに触手を伸ばして、辺りを泳ぐ。
中身はタコやイカに近い形の生き物が入っているようだ。
角度によっては中身が見えるが、
かなり気持ち悪い。

ノーチラス

そもそも私はサザエやイソギンチャクなどの
海の生き物が気持ち悪くて苦手なのだ。

しかし、マッシュルーマーよりもノーチラスの方が
見ていて面白いので、ついついトントンとつつきながら
観察してしまう。

その時、トントンとノーチラスをつついた音に反応して
マッシュルーマーたちが集まってきた。

その姿をノーチラスの目玉がギョロリと追った。
はっ!!嫌な予感がする!
逃げろ!マッシュルーマー!!

シュッ!!
一瞬、ノーチラスの触手が動いたが、
特に変わった様子はない。

単にじゃれただけだったのか、
マッシュルーマーたちも無事だ。
ほら、1、2、3、4、5、6、7…。

1匹減ってる!!
ノーチラスに食われたのか!?

シュッシュッ!!
はっ!!
今のはちゃんと見えた。
すごい勢いでノーチラスの触手が伸び、
マッシュルーマーを口へと運んだのだ!!

今の動作でマッシュルーマーは5匹になってしまった!

逃げるんだ!マッシュルーマー!
まだ生まれてから20分しか経ってないぞ。
生後20分で命を落とす気なのか!
その貝から離れるんだぁ!

シュシュッ!!
うあああああああぁぁぁぁぁ!!
また食われたぁ!
サイヤ人並みに素早い攻撃だーー!

よぉし、ライトを消してやる!
真っ暗な中じゃ、ノーチラスの奴も獲物を捕らえる事はできまい!

シュッシュッ!!
うああああぁぁぁぁぁ!!
暗闇の中からさっきと同じ音が聞こえるーーーー!!

海の生き物に暗いも明るいも関係ないんだぁぁぁぁ!
マッシュルーマー、馬鹿な飼い主でごめんよーー!
今、電気をつけてやるからなー!

パチッ。
シュッ!
うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
最後の1匹がノーチラスの腹の中へー!!


シーマン日記 その10

今や水槽の中はノーチラス1匹だけである。
せっかく卵からかえったマッシュルーマーは
ドラえもん1話分程度の時間しか生きられず、ノーチラスに食われてしまった。

ノーチラス1匹だけになった今となっては
「シーマン」という名のパッケージすら意味はない。

なぜなら私の水槽で育っているのは「シーマン」ではなく「ノーチラス」だからだ。
コポコポと酸素ポンプの音だけが聞こえる水槽で、
私はこの貝を育てていかねばならないのか。

ゴフゥ!!
その時、水槽の中のノーチラスが黒いスミを吐いた。

どうしたというのだ。
敵に襲われたわけでもないのにスミを吐くとは。

ゴフゥ!
また吐いた。
死んでいったマッシュルーマーたちへのレクイエムのつもりか。

ゴフゥゴフゥ!
いや!?
何やら様子がおかしい。
苦しんでいるような気配だ。
真っ黒なスミを吐きながら水槽中を逃げ回っている。

ゴフフゥ!
おお!?
黒いスミに赤いものが混じり始めた。
血か?
出血しているのか?
ノーチラスは苦しそうにピクピクしながら
血とスミを吐き続けている。

うぉ!!
ノーチラスの中身が貝から出てきた。
今までヤドカリのように貝を背中にしょっていたのに
その貝から出てきたのだ。

どうしたというのだ。
普通の行動とは思えないぞ。
それともこれがノーチラス特有の行動なのか?

ビクビクビクビクビク、ゴフゥゴフゥ!
ノーチラスの周囲が真っ赤に染まる。
違う!
ノーチラスは正常な状態ではない。
とてつもない変化により今にも死にそうなのだ。
こ、これはまさか…。

ピシューッ!ピシューッ!ピシューッ!ピシューッ!
ピシューッ!ピシューッ!ピシューッ!ピシューッ!
その時、ノーチラスの体内から
8つの小さな影が飛び出してきた!
と、同時にノーチラスは一層、赤い血を撒き散らして
動きを止めた。

目の光がなくなっている。
死んでしまったのだ。
ゆっくりと水槽の底に沈んでいく。

それにしても、ノーチラスから飛び出してきたものは
なんだったのだろう。

水槽を見回してみる。

イースルカゲキ!

その時、小さな子供の声が聞こえた。
こ、これは!

透明で非常に小さな魚の形をしており、
前面部におっさんのような顔がついている。

稚魚

間違いない。
シーマンの稚魚だ!

似たような魚が8匹いる。
顔はおっさんだが、子供のような声で何やらしゃべっている。

わかった!
マッシュルーマーはノーチラスに食われた後、
体内に寄生し、シーマンへと進化を遂げたのだ!

ノーチラスに捕食されたのは
成長のために必要な行動だったのだ。

8匹のマッシュルーマーは
8匹のシーマンへと、進化の一歩を踏み出したのだ!!

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