シーマン日記

シーマン日記 その22

ギルマン同士の吸血により、
水槽の中のギルマンは7匹になった。

エサも食べるくせに吸血までするとは…。
これがシーマンの生態なのだろうか。

成長して大きくなったら私に襲い掛かってきたりしないだろうか。

シーマンが少し恐くなった。


シーマン日記 その23

ギルマンといろいろ話してみる。

「名前は?」
『僕はシーマンだよー』

「こんばんは」
『こんばんは』

「どうも」
『どーもどーも』

「うんこ」
『うんこ、うんこ、うんこ、うんこ』

「バカ!」
『バカって、なに?』

「アホ」
『アホアホ』

まだ子供のせいか、反応が非常に単純だ。
くすぐるとキャハハハハとまるっきり子供の声で笑う。

人間の子供と同じで、長時間相手をするのは疲れる。

そうしているとギルマンが突然、

『吸われてる』

と言い出した。

今、相手をしていたギルマンがしゃべったのではなさそうなので
水槽を見回してみる。

すると再び、あの音が聞こえた。

ドックン、ドックン…。

吸血

吸血行動だ。

吸われている方のギルマンの体がピクンピクンと動きながら
どんどん表情がなくなっていく。

また1匹、数が減った。


シーマン日記 その24

気のせいか、透明だった体が少し濁ってきた気がする。
以前までは完全に向こう側が透けていたのに
若干、うろこのような模様が表面についてきた。

膨らんでいた腹の部分も少しずつ小さくなってきている。
魚らしい体つきになってきたのだ。

だんだんと成長しているという事か。

しかしギルマンの吸血行動が止む事はなく、
1匹、また1匹と数を減らしていく。

生存競争か。
こんなガラスの水槽の中で
生きるための戦いが繰り広げられているのか。

強いものだけが生き残るルール。

そして水槽の中は2匹だけになった。


シーマン日記 その25

突然の変化があった。

今日、水槽をのぞいてみたらシーマンが
完全に魚の体つきになっているのだ。

体は透ける事もなく、うろこで覆われていて
うっすらと模様がついている。
背びれができ、尾びれのやや下あたりにもひれができている。

しかし顔だけは人間のおっさんなのだ。

シーマン
なんだか着ぐるみを着ているおっさんみたいだ。
これぞシーマン。

ちょっと話しかけてみよう。

「おはよう」
『もう夜だぜ。
 あいさつぐらいちゃんとしろよ』

うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!
声がおっさんになっている!!!

しかも会話の反応がかなり生意気だ。

「元気?」
『普通』

「暑い?」
『別に暑くない』

「シーマン」
『はいはい。
 なんでございましょう』

ほほぅ。
ちょっと愛想がなくなっている。
声変わりが終わったので、ちょうど反抗期の頃か。

「ピカチュウ」
やめろ!俺をそう呼ぶのは

やはり反抗期のようだ。


シーマン日記 その26

『おーい』

ん?

『おーい。誰かいないのー?』

おお。
シーマンから話しかけてくるとは初めてだ。
なんだか嬉しい。

『俺さ、いろいろ思い出してきたんだよ。
 昔さ、ジャン=ポール・ガゼーってフランス人が
 俺を育てようとしてたんだ。
 そいつが虫かごを作ってたはずなんだけど
 その中に俺の好きな幼虫がいたはずなんだよ。
 お前、ちょっと探してくれないか』

虫かご?
水槽と保管器しかないと思っていたが、虫かごなんてあるのか?

おお、あったあった。
確かに虫かごだ。

中には黄色い蝶の卵のようなものが4つ、
さらに植物の種のようなものが2つ入っている。

卵?

植物の種?

虫かごにはスプレーも用意されていた。
これを使えば虫かごの中に水を吹きかけられるようだ。

とりあえずスプレーで湿り気を与えた。

次の日、種の方は発芽して緑の長い葉をつけていた。
先につぼみのようなものがある。

卵の方もパリパリという音とともに孵った。
中から出てきたのはイモムシだ。
やはり蝶の卵だったのか。

うわっ!!!
よく見ると、こいつにも顔がある!!



相当気持ち悪い。
イモムシはクネクネと動きながら草に登り、
シャリシャリと音を立てて葉っぱを食べた。

またしても気持ち悪い。
4匹のイモムシにかじられて、葉っぱはどんどん穴だらけになっていく。

そしてイモムシはしっぽを震わせてキリキリと鳴いた。


シーマン日記 その27

また今日もシーマンと話をする。

『このソフト、まだ発売してから間もないのに
 お前、ずいぶんやり込んだな』

そりゃそうだ。
私はお前を息子のように大事に育ててるんだからな。

『お前、これまであまり俺の世話をしてくれなかったよな。
 あん?ルーズな奴ってペットから嫌われるんだよね』

なんだと!!
毎日毎日、温度の調整や酸素の供給を世話してやってるのに
なんだ、その言い草は!!
私はそんな風に育てた覚えはないぞ!

『腹へってきた』

文句があるのに注文だけはするのか!
くそー!思い上がりやがって!

食え食え。いくらでも食え。
食べ過ぎて死んでしまえ。

虫かごからイモムシをつかみ、水槽に落としてやると
すぐにシーマンが喰らいついた。

人面魚が人面イモムシを食べている。
おっさん VS おっさん。

うげー。


シーマン日記 その28

『お前、男?女?どっち?』
「男」
なんだ、つまんねぇ

なんだ、パパに向かってその言い方は!!
それに「お前」とはなんだ!
口の利き方がなってないぞ!

『お前、干支は何どし?』
「へび」
『へび!?
 わはははははははは!
 芸術家タイプねぇ。不安な事が多いだろ』

なぜ「へびどし」で笑うのだ。
へびだといけないのか?
昭和52年はみんなへびどしだぞ。

『お前ー、何歳?』
「22歳」
『22歳?』
「はい」

『で、何月生まれ?』
「5月」

『の、何日生まれ?』
「4日」

『誕生日が5月4日。
 って事は星座はおうし座かー。
 お前、見かけによらず責任感や意志が強いんだな
 俺を育てるには向いてるかもな』

見かけによらず?
大きなお世話だ。


シーマン日記 その29

『お前ー、前に22歳って言ってたけど、
 って事は学生か?』
「いいえ」

『じゃあ、働いてるのか』
「はい」

『仕事は何やってるわけ?』
「(専門学校の)講師」
『理容師?』
「違う」

『じゃ、なに?』
「(じゃあ、)教師」
『放送関係?』
「全然違う」

『仕事は何やってるわけ?』
「(じゃあ、)先生」
え?』 ←この聞き返しがムカつく
「せ・ん・せ・い」
『なに?わかんねえよ』

もういい!!


シーマン日記 その30

『あのさー、前にも聞いたけど、
 お前、仕事は何やってんの?』
「講師」
『理容師?』

だめだ。やっぱり認識してくれない。
どう言えばわかってくれるのだ。

そうだ!!

『お前、仕事は何やってんの?』
「学校職員」 ←これでどうだ

『へえー。学校の先生ですか。  ←やった!認識した
 先生って呼んでいいですか?』
「はい」

『冗談だよ。呼ばねえよ』 ←でもバカにされてる

ムカついたのでデコピンしてやる。

ピシッ!

『いてっ!
 …謝れよ』


今度は機嫌を取るためにくすぐってみる。

コチョコチョコチョコチョ。

『ほっほっほっほ。やめれ〜』

なんか、シーマンに振り回されてる…。


シーマン日記 その31

『お前、もしかして結婚してる?』

最近はなぜか質問攻めだ。
そんなに私の事が知りたいのか。

「いいえ」

『独身?』
「はい」

『22歳だったよなぁ。
 ま、独身生活をエンジョイするにはいい歳だよな』

むぅ。
妙に知った風な口を利くな。

卵から育ててやったのに、なぜこんなに上に立たれているのだ。

『彼女はいるのか?』
「はい」
『お、彼女いるんじゃねぇか。
 やるなぁ』

褒められた時までも上に立たれている気がする。

『お前、血液型B型だろ
「いいえ」

『じゃ、何型?』
「AB型」

『ABか。珍しいなぁ』

っていうか、「B型」だと思った理由を聞かせてくれ。


シーマン日記 その32

ずっとシーマンに質問ばかりされていたので
今度はこっちから話しかけてみる。

「名前欲しい?」
『…よーし。今から俺に名前をつけさせてやろう。
 名前が決まったら「決まりました」と言うんだぞ』

なぜ敬語で言わなければならないのだ。
なぜそんなに偉そうなのだ。

うーむ。
何かいい名前ないかな…。

よーし、思いついたぞ。
「リンドバーグ」だ。
大空を駆け巡った偉大なる名前である。
泳いでいるものに飛ぶものの名前をつけるなんて
ちょっとおしゃれではないか。

「決まりました」
『じゃあ、今からその名前を3回言ってくれ。ハイ!』
「リンドバーグ!」
…と言ったら名前を言うんだぞ

ってオイ!引っかけかい!!

『ハイ』
「リンドバーグ」

『もう一回』
「リンドバーグ」

『もういっちょ』
「リンドバーグ!」

『よーし。覚えておいてやろう
 次から俺を呼ぶ時はその名前で呼べよ。
 忘れても俺は絶対に教えてやらないからな』

むむぅ。やはり高飛車な態度。
「リンドバーグ」なんて名前をつけたら
ますます態度がでかくなりそうだな。

名前をつけてあげたリンドバーグは
もう1匹のシーマンとは違い、体の色が金色に変化した。

…悪趣味だな。


シーマン日記 その33

今日もまた水槽をのぞく。
もはや毎日の日課だ。

魚(うお)!!!
じゃなくてうおぉぉっ!!

シーマンに足が生えている!!

そう言えば昨日、腹のあたりに
何かヒラヒラと細いものがくっついている気がしたんだが
あれは足だったのか。

シーマンに足が生えた

生々しくて非常に気持ち悪い。

しかも、シーマンの泳ぎ方も尾びれではなく
バタ足を使ったような泳ぎ方に変わっている。

足が生えたという事は、上陸するための進化をしているのか。
ついに水の中から上がってくるというのか。

そんな事を考えていると、
シーマンはこちらを向いてニヤリと笑った。

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