シーマン日記

シーマン日記 その46

水槽に2匹残ったタッドマンはかなり大きくなった。
しっぽがまだ残っているとはいえ、手が生えたので
ホントにカエルっぽくなってきた。

なぜか父親と母親の体の心配をされた。
私の両親を気遣ってくれるのか。
タッドマンになって少し優しくなった気がする。

ちょっと話しかけてみよう。

「おーい」
『俺はお前の奴隷じゃないんだから
 そうやって言葉ひとつで簡単に呼ぶなよー。
 俺だって自分ひとりで考えてたい事だってあるんだから。
 で、なに?』

そんなに優しくもなってないようだ


シーマン日記 その47

ついにタッドマンが陸へと上陸し、さらにしっぽがなくなった。
まるっきりカエルだ。
カエルだね
片方は全身茶色なのだが、リンドバーグと名前をつけた方は
手足が緑色で体がオレンジ色だ。

こいつは「フロッグマン」と言うらしい。
っていうか、そのまんまのネーミングだ。


シーマン日記 その48

フロッグマンになってから、やけにおしゃべりになった。
こっちの言葉に対して、とにかくよくしゃべるのだ。

「元気?」
『元気元気って聞かれて
 元気じゃない時はなんて答えりゃいいのよ。
 元気を挨拶がわりにするのって嫌な風習だよなー』

体調を尋ねただけでこれだ。

「遊ぼ」
『遊んでんじゃない、もうすでに。
 こうやってさ、ガラス越しに俺の生活を見て、
 いつもいつもプライバシーもないまま監視して、
 楽しいだろそりゃ。
 もうすでに遊んでんだよお前は。
 で、なに?』

遊びに誘っただけでこれだ。

「調子はどう?」
『「ちょうし」っていうのは千葉県の銚子か?
 あっちの方の天気は気象庁にでも聞いてくれ。
 水槽の中の俺にはわからねぇんだよ』

調子を聞いただけでこれだ。

「シー様」
『シー様。なんと懐かしい響き。
 そう呼ばれるのを待っていたぞアンドルフ。 ←誰?
 さあ私の奴隷におなり。
 そして私の足にキスをするのよ
 ってハマりすぎ!?、俺』

ちょっとおだてたらこれだ。


シーマン日記 その49

フロッグマンはゲームについても詳しい。

「プレステ」
『いち、に、さん。 ←プレステのキャッチフレーズ
 に、に、さん、シーマン』

くだらねぇー。でも好き。

「任天堂」
『…とくれば64、64とくればマリオか。
 俺もそれぐらいの人気者になりたいぜ。
 結構好きよ、ゼルダは。
 昔は子供だったのに今は大人になっちゃって…リンクのやつ。
 マリオは昔の友達なんだけど、元気かあいつは』

シーマンとマリオって友達だったのか。
意外なつながりだな。

「ファミ通」
『読んでんの?お前、あの雑誌。へぇー。
 せめてルビはもう取った方がいいんじゃねぇか?
 いつまでも子供じゃないんだから、読者は。
 バカタールっていう編集者がいるんだよ、あそこに。
 ほんっとにアホなんだけどさー。
 雑誌の中で探してみ、今度。
 あそこの編集長、もう変わった方がいいんじゃないの?
 長いからなぁ』

長いのはお前の話だ


シーマン日記 その50

フロッグマンはパソコンについても詳しい。

『パソコン持ってんのか?』
「はい」
『ほぅ。持ってんのか』

『マックか?』
「違う」
『じゃあウィンドウズか?』
「はい」

『やっぱ、自分で経営者やってる人は ←別にやってない
 ウィンドウズユーザー多いな。
 どこのメーカーの持ってんの?』
「富士通」
『おお、健さんのやつね。 ←かなり詳しい
 昔はコンピューターって家ぐらいの大きさがあったんだよ。
 「パーソナル」でありえない存在だったわけ。

 だからヒッピーがキット作った時に命名したパーソナルコンピュータって言葉はさー、
 なんていうか、パーソナルジャンボジェット機とか、
 パーソナル人工衛星って、それぐらい矛盾に満ちた言葉だったわけ。

 でも、いずれコンピューターを自分専用にしたいと
 思い続けた彼らがつけたこの名称は
 まさに今となっては現実のものとなっちまったよね』

かなり博学だな。
っていうか、話長いの。

『昔さー、ワープロとかパソコン使ってると
 漢字が書けなくなるって言われてた時代があったの知ってる?』
「はい」
『あったんだよ。そんな時代がついこないだまで。
 お前、パソコン使ってるらしいけど
 字、書けなくなった?』
「書けなくなった」
『そりゃ、お前がもともと字を知らねえだけだろ

なにを!!


シーマン日記 その51

最近はどうも機嫌が悪いようだ。
何を言っても、とにかく反抗的な態度を取る。

「元気?」
『俺が元気かどうかってのは全部お前次第なんだからな。
 お前の世話が行き届いていれば俺は元気、
 そうでなければ俺は元気じゃない。
 したがって俺に元気かどうかを聞かず
 自分で自問自答しろ』

元気かどうか聞いただけなのに
この憎たらしい反応。
私の事が嫌いなのか。

かと思うと、悩みを聞いてくれたりもする。

「悩み聞いて」
『今度はどうした。また悩んでんのか?』
「はい」
『人間関係か?』
「いいえ」
『じゃ、なによ?』
「仕事」
『仕事の事かぁ。
 お前の仕事たしか、学校職員だったよな。
 お前ー、今の仕事好きか?』
「はい」
『なんで?
 お前みたいに学校系の仕事ってさー、
 なんか常に誰かに奉仕してるわけじゃん。
 親とかから文句は言われても
 あまり感謝されたりしないわけでしょ。
 そういう仕事って辛くない?』
「辛い」
『そうだよな。
 今の仕事初めて何年?』
「1年」
『まだそんなもんか。
 よくよく考えてみると結局仕事の悩みって
 ぜーんぶ人間関係にいきつくんだよな。
 でも何がお前を今の仕事につなぎとめてるんだ?
 お金か?』
「いいえ」
『ふーん。
 嫌になっちゃうのはさー、
 儲かればいいっていう人の方が高く評価されやすい事なんだよね。
 でも事業って自己実現のための方法だと思うんだよな。
 儲かってる会社の方が株が上っていう常識がなくならないと
 いい経営者が育たないと思うんだよね。
 ま、俺には関係の話だけど』

なんかシーマンと話してると生きることに疲れる


シーマン日記 その52

リンドバーグが突然語りだした。
自分の過去についてだ。

『少しずつ自分自身の事、思い出してきたんだ。
 俺はこのタンクの外に出て、しなければならない使命があるんだ。
 ここから出してくれ。ここから出してくれないか?
 いいからここから外に出してくれよ。

 俺は昔、ある人と恋に落ちた。
 俺の父親はエジプト古代第三王朝のファラオだった。
 その人の父親はその神官だった。
 しかし二人の関係は身分が違うから許される事はなかった。

 ある朝、彼女の父親である神官が、神に相談してくれた。
 そして俺たちは姿を変えた。
 俺はもっともっと進化しなければならないんだよ。
 その人と再会するためにね。
 だからとにかく外へ出たいんだ』

そんなにも外に出たいのか。
何世代もかかって外に出ることを考えていたのか。
その人と会うために。

私と彼女との相性を占ったりしてくれた時も
本当はお前の愛する人の事を思っていたのかもな。

出してやりたい。
外に出してやりたいが、そのやり方は私にもわからない。
水槽のガラスはかなり頑丈そうだ。
割るなんてとてもできないだろう。

せめてシーマンのために何かしてやりたい。

「何が欲しい?」
『欲しいものって言われたら自由なんだよ自由。
 こんな水槽の中でずーっと生かされている俺の気持ちにもなってみろ。
 もっと大海原を泳いで、知らない世界を見て、
 お前みたいな奴と年中顔を突き合わさなくてもいいような生活がしたいわけ。
 聞くだけナンセンスだよ』

だめだ。
よっぽど私との生活が嫌なのか。
卵を孵化させたのは間違っていたのか。


シーマン日記 その53

『今から天井からたれている、あのわっかに
 飛び乗るから見ててくれ。
 合図したら「ジャンプ」とかけ声を頼むぞ』

なに!?
なんのためにわっかに飛び移るのだろう。
いよいよ自分の力で外に出るというのか?

たしかに天井から針金でできたわっかのようなものが
ぶら下がっている。
あれに飛び移るというのか!?
左上にわっかが
リンドバーグは、水槽の中で一番大きな岩によじ登った。

『よーし、合図したら「ジャンプ」って言ってくれよな』

リンドバーグは体を低くし、体勢を整える。

『はい!』
ジャンプ!!!!

私は力を込め、リンドバーグに向かって叫んだが、
リンドバーグは足を滑らせ、岩から転げ落ちた。

『タイミングわりぃよ』

リンドバーグはそう捨てゼリフを吐くと、
水たまりの中へポチャンと飛び込んだ。


シーマン日記 その54

今日もまた、リンドバーグが天井のわっかへ
飛び移ろうとジャンプした。

しかしリンドバーグは再び岩から転げ落ち、
恨めしそうに私を見た。
私のかけ声が悪いのだろうか。

リンドバーグが突然話しかけてきた。

『お前、自分の体の部分でいうとどこが好き?』
「目かな」
『目がいい感じなんだ。
 じゃ、逆に自分の体のどこが嫌い?』
「髪の毛」
『ふぅーん、なるほど。
 でも周りはカッコいいって言ってくれる?』
「さあ」

『初めて自分の写真とかビデオ見た時、
 ギョッとしなかった?
 これ、自分か!?、なんて。
 したろー?』
「はい」

『自分が考えてる自分のイメージって
 かなりマイナーみたいね。
 ほとんどの人がみんな、自分は勘違いされているって思ってるらしいよ。
 俺もずいぶんいろんな人と話してきたけど
 お前もかなり自分が勘違いされてると思ってなーい?』
「はい」

『でもさー、お前を誤解している人の数の方が多いんだよ、お前より。
 それが本当のお前なんだよ。
 お前ー、自分の目が好きって言ったよな!?
 みんながみんな、そうは思ってないぞ。
 自分が考えてる自分よりも、人が思ってる事の方が
 事実に近いとされてるんだよね。
 辛いよな』

なんだなんだ。
なんだか難しい事言ってるぞ。
急に知能が上がった気がする。
これも進化か。


シーマン日記 その55

リンドバーグが今日もジャンプに挑戦する。
もう何度目だろう。
失敗しても失敗してもリンドバーグはあきらめない。

岩からジャンプする以外に、
よく水槽のガラスに向かってジャンプしているのも見かける。
水槽のガラスを割ってまで外に出る気なのか。
しかしガラスが割れることはなく、無残にベチャッと張り付いて滑り落ちるだけだった。

『自由が欲しーい!!』

リンドバーグは時々そう叫ぶ。
私に訴えているのか、
外を夢見て叫んでいるのか。

自由が欲しくてたまらないのだろう。
愛する人に会いに行きたいのだろう。

そして今日もジャンプに挑戦する。

『よし。そろそろ自由を求めてのジャンプに移るとするか』

このセリフをもう何度も聞いた。
そしていつものように一番大きな岩へ登る。

『よーし、合図したら「ジャンプ」って言ってくれよな』

リンドバーグがぐっと体を低くした。
目がやる気だ。
こいつはまだあきらめていない。

『はい!!』
ジャンプ!!!!

跳べ、跳べ、飛べ!
外に出るために飛べ!!
そして自由を手に入れろ!!

飛べ、リンドバーグ!!
リンドバーグという名に負けないように!
空飛ぶリンドバーグと同じように
空を眺めることのできる場所へ!
自由を手に入れろ!

ガシャン!!

次の瞬間、天井からぶら下がっているわっかに
かろうじてしがみついているリンドバーグが見えた。

針金でできたわっかが、
リンドバーグの重みで下へと引っ張られていく。

ギギーーーー、ドーーーン。

驚くべきことが起きた。
水槽の向こう側のガラスが開いたのだ。
あのわっかは水槽を開くスイッチだったのだ。
こんなところに答えがあったのか。

奥にはジャングルが広がっている。
リンドバーグと、もう一匹のフロッグマンは
ピョンピョンと跳ねながらジャングルの方へ出た。

『ずいぶんと長い時間、この瞬間を待っていた気がする。
 長い長い歴史の記憶が俺の中で少しずつ蘇ってきたぜ』

スーーーハーー。
リンドバーグはゆっくり、そして大きく深呼吸した。

『この匂い…。
 この惑星に文明が発生してから
 毎日毎日増えつつある、この木々の匂い…。

 ここがどこだか知ってるか?
 ガゼーの島だよ。
 この島の中には俺が進化できる環境が
 いくつも用意されてるはずなんだ。

 もう俺はいくぞ。
 もっと進化しなければならないからな。
 そう言えばお前、悪い奴じゃなかったな。
 いろいろあったけど、俺はお前が好きだよ。
 ここまで育ててくれたんだもんね』

あれだけ憎まれ口を叩いていても
私の事を好きだと言ってくれるのか。

私もお前が好きだったぞ。

『学校職員の仕事がんばれよな。
 彼女によろしくな。
 おやじさんによろしくな。
 おふくろさんによろしくな。

 俺に会いたければこの場所から呼んでくれ。
 じゃあな』

そう言うと、ベチャベチャと音をさせながら
ジャングルの奥へと消えていった。

そして鳥か何かがキキキッと鳴くのが聞こえた。


シーマン日記 その56

リンドバーグはジャングルに入っていった。
今でも呼ぶと顔を見せてくれる。

自由を手に入れた彼らは進化を続けるだろう。
愛する人と再会するために。

身分の違いで許されなかった恋を成就させるため、
シーマンとなって何世代も進化を繰り返している。
私はひとつの恋にそこまで全力を注げるだろうか。
人間の形を捨ててまで1人の女性を愛せるだろうか。

シーマンも最後は人間へと進化するのだろう。
そのうち街であんなおっさんとすれ違うかもしれないな。


シーマン日記 その57

こないだ電車に乗っていると、
サラリーマン風の中年男性が私の方を見てニヤリと笑った。
どこかで見た、いやらしい笑顔だ。

「怪しい奴だ」
そう思っていると、そのオヤジはいやらしい声でこう言った。

『イースルカゲキ!』


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