上京日記

上京日記 その1

2004年10月上旬、
夕食を食べていると、玄関のチャイムが鳴り
1通の速達が届いた。

速達が届くことなんて10年に1回あるかないかの我が家だ。
しかも私宛てだという。

封筒を見ると「CESA」と書いてある。

CESA(セサ)といえば東京ゲームショウを主催したりしている
ゲーム業界関係の団体である。

開けてみると「CESA GAME AWARDS INDIES受賞決定のお知らせ」と書いてある。

思い出した!

毎年CESAが主催している「CESA GAME AWARDS」というコンテストがあるのだ。
基本的には市販されているゲームソフト、
もしくは市販を見越して開発しているゲームソフトの中から
優秀なものに賞を与えるのだが、
今回から「INDIES(インディーズ)部門」として、
プロ・アマチュア、個人・法人問わず製品化されていないゲーム作品を
対象にした賞が新設された。

5月から8月までの応募受付期間だったので
以前作った「フロントライン」と「バーガーメーカー」を応募したのだった。


上京日記 その2

応募に必要なものとして、応募者の住所氏名や連絡先、
作品名と作品を収録したCD−Rが必要なのだが、
それ以外にゲーム動作画面を録画したVHSテープがいるのだ。

残念ながらその作業に必要な機器がないので
職場である学校の実習室にあるダウンスキャンコンバーターで
パソコンのモニター出力をテレビ用に変換し、
テレビに映ったゲーム画面をビデオで録画することにした。

自分でプレイしながらの録画になるのだが、
実は開発してる身としては自分のゲームがあまりうまくないのだ。
開発中はデバッグコマンドを用意して、いつでも体力回復させたり、
無条件でクリアさせたりできるようにしているので
真剣にプレイしたことが少ない。

いざ真面目にプレイすると、たいして華やかな操作をすることもなく
指示された5分という収録時間に達してしまった。


上京日記 その3

もともと「GAME AWARDS INDIES」開催の連絡は
職場に来たものだった。

我が専門学校にゲームソフト制作のコースがある関係上、
学生向け告知として送られてきたのだが、
学生はライバルが学生だけの方がいいだろうということで
学生用コンテストに応募しているのだ。

そこで私の作品をアマチュア制作の作品として
応募したことになる。


上京日記 その4

受賞した作品は「バーガーメーカー」の方だった。
一般的な人気としては「フロントライン」の方が上だが
賞ということで、アイデアとしての工夫や新しさを優先されたのだろう。

受賞決定の連絡の中には発表授賞式の開催日と場所が書かれていた。
場所は東京。私のいる兵庫県からはかなりの距離だ。
ただし、交通費も支給してくれるらしい。

賞に関して、CESAのホームページで確認すると
 ●大賞(1名)  賞金:50万円
 ●優秀賞(該当数)賞金:
5万円
と書かれている。

私の作品はここに入るのだろうか。
この連絡はあくまで候補として加わることができた「ノミネート」の意味なのか、
なんらかの賞が与えられる、文字通り「受賞」なのかわからなかった。
普通で考えると後者だが、あまり期待しすぎるのもよくない。

さらに、受賞の事実は当日の発表までは表沙汰にしてはいけないらしく、
その注意書きが書かれていた。


上京日記 その5

とりあえず翌日、直属の上司に受賞連絡の書類を見せ、
授賞式当日に休みが取れるか聞いてみる。

するとさらに上の上司のところに連れて行かれ、
受賞の報告と、なんとか出張扱いにしてもらえるよう頼み込んでくれた。

結果、業務の延長と認められ、
出張として行けることになった。
普段、ゲーム制作の授業を行っているだけに
なんとか業務範囲内ということで許可してもらえたようだ。

交通費がCESAの方から出るというのも大きかったように思う。
当日、業務の面では不在になるが
経費としてかかるものがない分、許可が得られやすかった。

会社員に詳しくない人向けに説明しておくと、
出張扱いにしてもらえれば、その日は仕事で外出しているということになる。
これが出張ではなく、会社を休んで行くとなれば
その日の分の給料が出ないわけだから、
出張扱いかどうかというのは意外と大きいのだ。


上京日記 その6

行けるとなれば次は行くための準備である。
なにせ私の生き様というのは「ポジティブな引きこもり」だ。
仕事や誰かとの約束の時には外出するが、
基本的には家にいるのが好きだ。
スローガンは「兵庫県から出ない」。

子供の頃の修学旅行や家族旅行などではともかく、
自力で遠方へ旅行した経験がないため、
東京までたどり着く自信がまったくない。

だがせっかくのこのチャンス。行くしかないのだ。

とりあえず新幹線である。
東京まで行くなら新幹線。それぐらいはわかる。
「のぞみ」とか「こだま」とかいうやつだ。

でもたぶん普段乗っている電車とはいろいろ違うのだろう。
速さも違うはずだが、乗車の手続きとか座席とかの新幹線ルールがあるはずだ。

兵庫県から東京までの費用や時間がどれぐらいかかるのかもわからない。
当日は午後2時から受付が始まるし、
翌日の仕事も考えると日帰りになる。

とりあえず旅行慣れした知人に相談すると、
「みどりの窓口」に連れて行かれた。

今まで駅で見かけることはあっても
まったく無関係だった「みどりの窓口」が
まさか新幹線の切符売り場だったとは。


上京日記 その7

新幹線の時刻や料金が載った小さい冊子を開き、
東京到着後の会場までの移動時間や食事の時間も考えて
2時間ほど余裕を取った到着時間の新幹線を見つけた。
これだけ余裕を持てば、いくら迷ってもたどり着けるだろう。

帰りに関しては午後5時半に終わるので、
6時半ぐらいに東京出発の新幹線を見つけた。
両方とも「700系のぞみ」だ。

む。なんとなく知っている。
「のぞみ」には500系とか700系とか
なぜか100刻みの数字がついていて
大きいほどスゴイのだ。
しかも「ひかり」や「こだま」などの新幹線よりも
「のぞみ」の方がエライのだ。最新技術のはずだ。

行き帰りともにいきなり最新型だ。
この旅を乗り越えれば私自身も成長するはず。


上京日記 その8

とりあえず、みどりの窓口で
言われるままに往復分のチケットを買う。
私の地元からだと新神戸駅から東京駅までだ。
28100円。高い。東京往復だけでこんなにかかるとは。

あと、


片道につき切符が2枚いる、って意味がわからない。

どう考えてもおかしい。


上京日記 その9

自分の部屋でゲームをしていると、
親が電話器を持って入ってきた。
携帯を持ち始めて以降、
家に私宛ての電話がかかってくることなんて1年に1回あるかないかだ。

「ゲームアーズってところから」

ゲームアーズ?

それはゲームアワーズ(GAME AWARDS)だ

まさか直接電話がかかってくるとは。

「は、はい。お電話代わりました」
「CESA GAME AWARDS担当の○○です」
「あ、はい、生島です」

すごく丁寧な声としゃべり方だ。プロの感じだ。
こちらも瞬間的に敬語に切り替わる。

「あの先日、こちらから郵送にて送らせていただいたんですが……」
「はい、受け取りました」
「あ、そうですか。このたびは受賞おめでとうございます。
 ご連絡したとおり、授賞式が行われるんですが
 出欠の方はいかかでしょうか」
「あ、出席できると思います」
「そうですか、ありがとうございます」
「はい」
「では当日ですね、身分証明書などの本人確認ができるものと
 賞金の振込み先である口座番号、印鑑などをお願いします」
「はい、わかりました」
「大賞と優秀賞の具体的な発表に関しては当日になります」
「はい」
「送らせていただいた書類に関しても、記入の上、ご返信ください」
「はい」

話しながら部屋を歩き回っている。
私の癖だ。
話しなれていない人と電話で話すと、無意識に歩き回ってしまう。

「あと何かご不明な点ございますでしょうか」
「あ、あの、受賞というのは
 必ず大賞か優秀賞のどちらかが
 頂けるということなんでしょうか」
「はい。生島さんの作品が
 いずれかの賞を受賞されることになります」

やったぁぁぁぁああ!まさに受賞!ノミネートじゃなかった!
少なくとも5万円は賞金ゲットぉぉぉ!


上京日記 その10

お世話になっている先輩にも受賞のことを話す。
公(おおやけ)にするのは止められているので、
このことを知っているのは上司と先輩だけだ。
この先輩は私が専門学校の頃に担任でもあった人だ。

「昨日、CESAから電話がかかってきて、
 絶対どちらかの賞はもらえるそうですよ」
「よかったなぁー」
「だから5万円は絶対もらえるみたいなんです」

「大賞(賞金50万円)とか無理かなぁ」
「いやー、大賞はキツいですよ。
 プロ下がりとかの人の作品とか絶対スゴイですよ。
 僕も大賞は期待してないんで。
 賞もらえるだけで嬉しいです」
「どれぐらいの作品が集まってるんだろな」
「その辺がどこにも書いてないんですよね。
 大賞は1作品ですけど、優秀賞は『該当数』って書いてますからね。
 100人ぐらいいたらどうしよう、って感じですよ」
「100人はいないだろー」
「いや、だってCESAですからね。
 プロ・アマ、個人・法人問わずのコンテストって
 分母大きすぎですよ」

そもそも授賞式ってどの程度のものなんだろう。
わざわざ東京に行くわけだけど
会議室みたいなところでやるのかな。
自分のほかにどれぐらいの受賞者がいるんだろう。
10作品?30作品ぐらいか?

有名な人とかと知り合いになれるといいなぁ。
ゲームメーカーの人とかいたりしないかな。


上京日記 その11

最初の連絡から授賞式当日まで3週間あった。
ずいぶんと先だし、そもそも東京までたどり着けるか不安だ。
その日まで他の人に言ってはいけないから
不安を相談する人も限られてくるし、すごく辛かった。
3週間も緊張が続けば行くまでに参ってしまう。

ただ幸いなことに、ちょうど仕事が忙しくなり
緊張する間もないまま毎日がアタフタと過ぎた。
さらに新発売されていく「バーンアウト3」や「エースコンバット5」などのゲームを
片っ端から買って遊んだ。
アクション性の高いゲームを何も考えずプレイするのが
この頃の自分にとって一番楽だった。


上京日記 その12

実は家族にはまだ話していなかった。
割と毎日、両親、妹、私との4人で一緒に夕食を食べているので
機会はたくさんありそうだが、
自分でもどれぐらいの規模なのかわからない賞だし、
ゲームなんかプレイしない家族だ。CESAのことも知ってるわけがない。

テレビを見ながら食事をしている父親が
母親と話をしている横で、
そんなことを考えながらファミ通を読んでいた。


上京日記 その13

ある日、父親が仕事で遅く、妹も出かけていた。
母親と2人だけで夕食だ。

私は見たい番組は全部DIGAで録画予約をしているので
特に夕食の時に自分からテレビを見ることはない。
母親もテレビよりも本が好きなタイプなので
自分からテレビをつけてまで見る番組はほとんどない。

たいした会話もせず、黙々と夕食を食べていた。
東京行きまで1週間。切符も買い、電車の時刻や駅も調べ、
あとは当日を待つだけだ。

お茶漬けでもしようと、きゅうすを持ってお湯を入れる。
母親が「私の分も」と声をかけてきた。

「あのさぁ」

お茶を母親の湯のみに注ぎながら言った。

「『東京ゲームショウ』って毎年行われてる
 日本で一番デカいゲームのイベントがあってさ」
「うん」
「そこの主催してる『CESA』っていう団体があるんだけど」
「うん」
「その団体がゲーム作品のコンテストを開いてて、
 あの、ちょこちょこ俺に送られてくる雑誌とかに載ってる、
 俺が作ったハンバーガーのゲームがあるんだけど」
「うん」
「それがコンテストで受賞したらしいんだ」
「ほぉ」
「で、今度東京で授賞式があるらしいから行って来るわ。
 交通費も出してくれるっていうし、
 有名な団体だから怪しいこともないし」

お茶漬けを食べながら淡々と話した。
母親の反応は予想外によく、東京へ行く日程や手段や
作品のことなどを話した。

思えば、ゲームプログラミングを勉強するために
専門学校へ行く、と言い出した私に
特に反対もせず入学費、授業料、パソコン代を出してくれたわけだ。

高校の時、 授業は真面目にやってたし、成績も普通だった。
担任の先生にはずいぶん大学を勧められたが、
寄り道をしたくなかった私は専門学校に決めてしまった。

経済面で自立できない高校生が親の支えなしに
自由な進路を選択するのは難しい。
親の世代なら「ゲーム」というと眉をひそめるのが当然だ。
なのに本人の意思を尊重してもらえたのはありがたかった。

今回の受賞で、やはりゲーム作りを学んでよかったと
自信を持てるようになるはずだ。そう思いたい。

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