上京日記

上京日記 その36

ホテルで授賞式が行われるといっても、
ホテルを丸ごと借り切っているわけではないだろう。
どこかの部屋を借りているはずだ。

フロントかどこかに案内が出ていないかな、と思ったが
ホテルに入ってまもなく立て札があった。
「CESA GAME AWARDS」と書かれている。どうやら地下だ。

しばらく進むと、また立て札が立っている。さすがに迷いようもない。
立て札に従って進み、地下へと下りる。

ホテルの中はあまりにも綺麗で豪華だ。
もしかしてすごく大きな式なんじゃないのか。


思わず写真を撮るが、あまりの豪華さに動揺した。


撮り直すもやはり動揺。

ホントにこの先なのか。私は参加者でいいのか。場違いではないのか。

エスカレーターに乗ってさらに下りる。


天井も綺麗。しかし天井が撮りたかったわけではない。

下っていくエスカレーターの先を見ると
スーツを着た人たちが大勢いる。
それをカメラマンたちが囲み、何度もフラッシュが光っている。

姉さん、事件です。(高嶋政伸風に)


上京日記 その37

下るエスカレーターをダッシュで登ろうかと思うぐらい
重々しい場だ。

スーツの集団の向こうには「CESA GAME AWARDS」と書かれた看板がある。
やはりここだ。間違いない。

ただし、これはINDIES部門だけの授賞式ではないようだ。
CESA GAME AWARDSには、他にもメーカー向けの
発売済みゲームや開発中ゲームを対象とした部門も用意されている。
今日はそれらの賞の総合的な授賞式だったのだ。

ドキドキしながら受付へ向かう。

「あのー、INDIES部門受賞者の生島と申しますが…」

他にINDIES部門がどれぐらいいるのかわからないし、
果たしてこれで伝わるのか心配だったが、
これ以外に私のことを説明する情報がないのでしかたがない。

すると、受付の女性に丁寧に挨拶され、
まず本人確認のための身分証を求められる。

ないとは思うが、私以外の人が代わりに紛れ込まないように
身分証で確認するということで、事前に電話で連絡を受けていた。
そうでなくても携帯しているが、財布に入れておいた免許証を差し出す。

本人確認を受けたあと、首からかけるネームタグと胸に着ける小さな黄色い花、
そしてプロフィールなどを書き込む用紙を受け取る。

しまった。

今、気づいたが筆記用具を持ってこなかった。
普段は職場でしか使わないため、一式を職場に置きっぱなしにしてきた。
あいにく胸ポケットにもささっていない。

「すみませんが、ボールペンかなにか
 お貸しいただけますか?」

ただでさえ緊張しているのに、さらに緊張するようなミスを
自分で起こしてしまった。
受付の女性はそこにあったボールペンを快く貸してくれ、
そして脇にいた男性に少し声をかけた。

するとその男性が近づいてきた。

「お世話になっております。
 GAME AWARDS担当の○○です」

挨拶をした男性は、電話などで何度か連絡してくれた方だ。
こうやってINDIES部門受賞者に毎回挨拶しているのだろうか。非常に丁寧だ。

ネームタグや用紙や花をグチャグチャと持った情けないポーズのまま
こちらも挨拶する。

「ではちょっと式に関して説明させていただきます。
 まず会場はこの中になります」

受付の横にある大きな入り口をくぐっていく。
あわただしくネームタグを頭からかけてついていく。
入り口の脇に立っているボーイが、前を通るだけで頭を下げてくる。

入り口をくぐると一気に視界が開けた。我が家が一戸まるごと入りそうなホール。
そこに数百人分のイスがぎっしり並べられている。

なんだここは。そしてこの広さは。

「こちらがINDIES部門の方のお席になります。
 生島様と、あと、こちらに3人のチームの方が来られます」

示されたイスは4つ。いずれも背もたれの後ろに
「INDIES部門受賞者席」と紙が貼られている。

4つ?

ということは私ともう1チームとで、参加者は2組ということか。
大賞か優秀賞のどちらかがもらえるということだから、
この2組のどちらかが大賞で、もう片方が優秀賞じゃないか。

優秀賞は「該当数」ということだったが、今回は1つだけのようだ。
単純明快ではあるが、これは優秀賞でも結構な倍率じゃないのか。
優秀賞が何十個もあったらどうしようと思ったが、これならかなり嬉しい。

いや、それよりもこの4つ以外の席は
すべてゲームメーカー関係者用ということなのだろうか。あまりにも量が多い。

深く息を吐きながら、4つのうち一番右のイスに腰掛けた。


上京日記 その38

受付でもらった用紙に記入する。

実は副賞の賞金に関しては銀行振り込みなのだ。
手間や安全面から考えると確かに合理的だが
賞金というからには直接手渡しで受け取った方が感激しそうだ。

実際にいくら振り込まれることになるかはまだわからないが、
借りてきたボールペンで口座番号を書き込む。
賞金は2日後に振り込まれるらしい。早い。

無事に書き終わると、ペンを持って受付まで提出しにいく。
書き間違えてはいないと思うが、提出したあとは少し不安だ。

先ほどの席へ戻る。隣のチームはまだ来ていない。

前を見る。


ライトの色とか、看板とか、設置しているスクリーンとかが本気すぎ。
アカデミー賞みたいだ。

私は1人チームなので話し相手がいない。
1人でいるのは苦じゃないが、開始まで暇だ。
ここでゲームボーイをして時間を潰すわけにもいかないだろう。

ネームタグを見ると、名前以外にゲーム名も書かれている。


これがないと会場に入れない。


しばらくすると、隣にも人が座り始めた。
INDIES部門の席ではなく、反対側の席だ。
数人で来てるグループらしい。
後ろを見ると結構席が埋まってきている。


隣に座っている人もやはりネームタグを首からさげている。
INDIES部門以外の人はどういう人なんだろう。

チラリと名前の部分が見える。

ドラ……ゴ……、ドラゴンクエスト!

いきなりだ。いきなり隣にドラクエ関係者。
やはりそういう場なのか。見た目通りの規模の式じゃないか。

携帯を取り出し、この感動を先輩にメールしよう。

が、圏外。


上京日記 その39

せっかくの臨場感も誰にも伝えられない。
地下なので電波状態が厳しいのだ。


そういえばCESAから交通費が出るはずだが
その金額や内訳などはいつ知らせればいいのだろう。
受付では特に聞かれなかったし、さっきの用紙にも記入欄はなかった。

賞金が振り込みで交通費が現金渡しというのも妙な感じだし、
一緒に振り込まれるのだろうか。

受付に聞きに行こうかとも思ったが
とてもそんな雰囲気ではない
少なくとも5万円は賞金がもらえるのだ。十分に元は取れる。
とりあえず今は式に集中しよう。


しばらくすると、隣のINDIES部門席にも人が来た。
3人チームの、もう1組の受賞者だ。

チラリと見ると、思ったより年齢が高そうだ。
というより普通にプロっぽい雰囲気。元プロのクリエイターなのだろうか。

向こうはチームで楽しそうだ。
こういう時は受賞者同士、会話したりするもんなのだろうか。
しかし話しかけづらい。ここは1人で待機だ。


緊張する。

スーツを着てきてよかった


上京日記 その40

時間が来た。
会場がぐっと暗くなり、司会の男性、女性が出てくる。
こういった場の司会のプロなのか、しゃべり方がそれっぽい。

上にある大きなスクリーンにも司会の顔が映し出される。
テレビの中継のような感じで、正面からのカメラの映像が出るようだ。

そしてスクリーンが切り替わり、各賞に関する紹介のデモが流れる。

今日、賞が発表されるのは

「GAME AWARDS INDIES」
「GAME AWARDS FUTURE」
「GAME AWARDS 2003-2004」

の3つ部門のようだ。
おそらく下に行くほど、よりレベルが高い賞なのだろう。

賞を発表していく順番もこのままのはずだ。
式としてだんだん規模の大きな賞を発表していく。

私にとってはいきなりだ。
式が始まって間もないのに、もうINDIES部門の発表が始まる。

「それではまず、『GAME AWARDS INDIES』の発表から始めましょう!

 『GAME AWARDS INDIES』はプロ、アマチュアを問わず
 まだ製品化されていないゲーム作品を対象に送られる賞です。

 プロのゲームクリエイターによる第一次審査でノミネート作品を選出、
 これらノミネート作品につきましては
 さらに東京ゲームショウ会場内においてCESA会員による審査、
 選考委員による最終選考を経てこの度の受賞作品が決定されました。

 それでは第一次審査を通過したノミネート作品6つをご紹介いたしましょう!」

おおぅ、ノミネートでいきなり6つまで絞られるのか。
全応募作品数が不明だが、第一次審査で6つに絞られるなら
かなり厳しいラインだ。


「ひとつ目は生島 大さんの『フロントライン』です!」

ひでぶっ!(古い)

いきなりフロントラインの名前が出た。
事前に聞いてなかったが、フロントラインもノミネートには入っていたのか。
バーガーメーカーは受賞作だから入っているとしても、
6作品のうち2つが私のものということになってしまう。
実は意外と全体数が少ないのだろうか。

「『フロントライン』は武器を切り替えながら
 戦場を進んでいくアクションゲームで……」

司会が説明していく横でスクリーンにゲーム画面が映し出される。
動きにこだわった棒人間キャラだが、
大スクリーンで映し出されると非常にチープに見える。魅力が伝わるのか。

しかもこの画面は私が応募時に提出したVHSテープのものじゃないか。
低い解像度のボヤけた画質がよりチープさを加速させる。

などと思ってるとすぐにVTRが終わる。6秒ぐらいだ。
ゲーム内容を知らない人だったら何がなんだかわからないんじゃないか。


「ふたつ目は生島 大さんの『バーガーメーカー』です!
 生島さんは2つの作品がノミネートされています」

あぁ、連続だ。
2作品の紹介とはいえ、10秒も経たないうちに
2度も同じ名前を呼ばれるとちょっと不自然だ。
隣のドラクエ関係者が失笑している。

とはいえ、



大スクリーンに、



確かに私の作ったゲームのタイトルと、



私自身の名前が出ているのは感激だ。

語呂がいいから、という理由で安易に決めたタイトルだが
これでよかったのだろうか。


上京日記 その41

ほか4作品のゲームも6秒前後といったスゴい短さで紹介されていく。

隣に座っている、もう1組の受賞者の作品が
残りの4つのうちのどれかなのだろう。

「これら6作品の中から、大賞、そして優秀賞が決まります!
 まずは優秀賞の発表です!」

しかし式に出席しているチームが2組である以上、
受賞作は2つなのだ。

賞の発表としては下のランクから発表するわけだが、
受賞作品の数と、その片方の作品を知っている私にとっては、
「優秀賞の発表 = 大賞の発表」なのである。

早い話、次の優秀賞で名前を呼ばれた作品が優秀賞、
呼ばれなかった作品が大賞なわけだ。

「第8回 CESA GAME AWARDS INDIES、
 優秀賞は……………」








つまり、ここで呼ばれれば賞金5万円、
呼ばれなければ50万円だ。







つまり、司会者が「バーガーメーカー」と言うかどうかだ。







」と言うのか?次の言葉は「」なのか?





「マヌカンピス(MANNEKENPIS)!」




うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!来たぁぁぁぁ!!!


50万円来たーーーーーー!!大賞ゲットォォォォォ!!!

ふおおおおぉぉぉぉ!(のだめ風に)
震える。腕が震えるぜ!来たー!やったよ先輩、大賞取ったーーー!
1位来たーーーーッ!!優勝来たーーー!!

すぐさまメールだ。知人にメールだ!

が、圏外。


上京日記 その42

スクリーンに優秀賞のゲーム画面が表示される。
対戦型パズルゲームだ。
ルールはよく知らないが、ボーッとした気持ちで眺める。
大賞が決まった途端のこの安らかな気持ちはなんだ。

「それでは優秀賞を取った小沼さんに
 コメントをいただきましょう!」

司会が紹介すると、隣のチームの1人がステージに出て行った。

いきなりマイクを渡されている。

「この作品は10年ほど前に企画書を……」

おおっ、いきなりマイクを渡されて
そんなにスラスラとしゃべれるもんなのか。
やっぱりこの人、単なる素人じゃないんじゃないか。

そして上の大スクリーンにも中継が。スゴイ。

コメントが終わるとCESAの会長から目録とトロフィーが渡された。
すごいフラッシュの量。後ろの席にはこんなに報道陣がいたのか。


そして受賞者がステージから下り、
再び周囲が暗くなる。

「続いて、いよいよ大賞の発表です!
 第8回 CESA GAME AWARDS INDIES、
 大賞は……………」



「バーガーメーカー!!」

うおおおおぉぉぉ!!知ってたけど嬉しいー!
やっぱり間違いなく大賞だったー!
受賞しただけで嬉しかったし、大賞とか優秀賞とかこだわらないつもりだったけど
実際に大賞を受けると普通に嬉しいじゃないかーー!


「『バーガーメーカー』は、上から落ちてくる10種類の素材を……」



司会の人がゲーム内容の紹介をしている横で
ゲーム画面がスクリーンに映し出される。



間違いなく私の作ったゲームだ。
私の描いたバーガーが並んでいる。
私の描いた客もいる。

この映像も応募したときのVHSテープの画像そのままだ。
こうやって紹介されるんだったら、もっと華麗にプレイすべきだった

普通のVHSテープだし、そのVHSテープも新品ではない。
DIGAを買ったときに、映画かなんかを保存してたビデオテープをダビングして
余ったやつを消去した中古テープだ。

思い切りでっかく表示されちゃって、
画像の乱れとか画質の悪さがモロにわかる。あちゃー。


上京日記 その43

「それでは大賞を取った生島さんに
 コメントをいただきましょう!」

いよいよだ。
その場で立ち上がり、ステージに向かう。

日頃の授業で大勢の前でしゃべるのには慣れているはずだが
今日に限っては久しぶりに緊張している。ヒザが震え気味なのがわかる。
もしかして右手と右足が一緒に出てるんじゃないのか。

ステージに上がるとスタッフの女性に案内され、
床にテープが×印に貼っているところに立つ。

そしていきなりマイクが渡される。

さっき、急いで考えた制作エピソードを話すことにした。

「私は普段、専門学校でプログラミングの授業をしております。

 実はこの作品を作ろうと思ったきっかけは、
 学生にゲームの作品を作るという課題を出すのですが、
 その課題の制作時期に学生から相談を受けまして、
 『何かいいゲームのアイディアないですか』と言われて、
 『ハンバーグをバラバラにして組み合わせてメニューを作るというのはどうか』と言ったら、
 イマイチ受けが悪くて『面白くないんじゃないですか』と言われてしまったんです。
  じゃ自分で作ろうということで作りました。

 10種類のメニューをハンバーガーとして考えるんですが、
 中に含まれるレタスなどの素材をあまり増やしすぎるとややこしくなりますので、
 限られた素材で10種類のハンバーガーを考えるのがものすごく大変で、
 ファーストフードショップのインターネットのホームページをひたすら見て、
 メニュー一覧やCMのライブラリを見ながら開発を進めていきました。

 どうもありがとうございます」

あとから見ると文章としておかしい部分がいくつかあるが、
その時は強い照明で客席側がまったく見えず、
非常に緊張した状態で夢中で話した。

ちょっと長くしゃべりすぎたかも、と思ったが
作品に関するコメントとしてはどれも外せなかったのだ。
作った側としては開発エピソードなんていくらでもしゃべれる。
こだわった部分や苦労した部分をもっともっと聞いてもらいたかったが
式の空気を乱さないうちに終わっておいた。

実際に参考にしたハンバーガーは「マクドナルド」のやつなのだが、
こういう場で特定の企業名を出すのはまずいかもしれないと咄嗟に思い、
「ファーストフードショップ」などという使い慣れない言葉に置き換えた。


上京日記 その44

コメントが終わると、優秀賞のときと同じくCESA会長から
目録とトロフィーを受け取る。

それらを受け取る瞬間は本当に嬉しくて、達成感にあふれた。

「ありがとうございます!」

会長に向かって小声で言った私の言葉は
まさしく心の底から出た言葉だ。

会長から手を差し出され、握手をする。
その瞬間、客席からフラッシュが光りまくった。

私がお礼を言ったまま会長を見ていると、

「あっち向いて」

と会長が小声でつぶやいた。


そうか。写真のことを考えたら二人でカメラの方を向くべきなのだ。
よく政治家同士がニュースや新聞でやってるじゃないか。

目をそらすのは失礼かと思って、普通に会長ばかり見ていた。
いきなりカメラを意識すべきとわかって急いで客席に振り向き、
マヌケな格好になってしまった。


大賞のトロフィーは上に行くほど太くなるデザインで
透き通ったクリスタル風のものだ。
ズッシリと重い。
そして土台のプレートに「大賞 バーガーメーカー」と刻まれている。

私の作ったゲームの評価が形として今、手の中にある。
この重さは苦労の重さだ。努力の重さだ。
ゲームを作り続けて本当によかった。

うっかり落とさないように大切に持ちながら、ゆっくりと席へ戻った。

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